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焼結における塑性流動機構についての転位の観察に基づかない実験研究|セラミックス技術コラム

セラミックス技術コラム

焼結における塑性流動機構についての転位の観察に基づかない実験研究

焼結における塑性変形を研究する最初の試みは、クリープ実験によるものであった。HwangとGermanの研究で論じられているように、焼結収縮を引き起こす拡散流動もまた、一般にHerring-Nabarroのマイクロクリープと呼ばれる高温変形機構である。この機構には転移の増殖とか滑りは含まれない。歪速度、 は負荷応力に比例して、次のような式が成り立つ。


ここで、 は負荷応力、 は体積拡散あるいは粒界拡散の活性化エネルギー、Rはガス定数、Tは絶対温度である。

Nabarro –Herringのクリープは、結晶格子内の転位源から増殖された転位が滑り面を動く通常の塑性変形プロセスと対比される。転位-転位および転位-組織間の相互作用は滑り面に沿った転位の運動を伴う。これらの相互作用の結果、転位がパイルアップする障壁が形成される。低温においては、パイルアップした転位の逆応力が負荷応力と等しくなり転位源は作動せず変形は停止する。

高温においては、回復が起こる結果、定常クリープが観察される。Weertmanはこのプロセスをモデル化している。そのモデルでは、障壁にパイルアップした転位は滑り面から上昇して、他の転位源から発生した逆符号の転位と合体して消滅すると仮定している。転位の上昇は、空孔の拡散速度に支配される。パイルアップした転位が滑り面からはずれて消滅すると、それに代わって最初の転位源から新しい転位が増殖される。このようにして一定応力下における定常クリープが起こり、これは転位の消滅、つまり転位の上昇を可能にする空孔の拡散速度に支配される。このモデルに基づいた計算によれば、単相金属の定常クリープ変形速度は次のような式で表される。

二種類のクリープ実験により、焼結中における物質輸送機構がモデル化されている。最初に球形銅粉圧粉体について等温収縮速度を測定した。圧粉体は、小さな圧縮荷重下で焼結された。球粒子間に作用する応力の計算も試みられた。すなわち、表面張力による応力と圧縮荷重による応力である。全応力は二つの応力を組合わせて得られた。外荷重を小さな値からより大きな値へと急激に変化させたときの歪変化を実験的に測定して、外荷重の変化の直前および直後の歪速度を決定する。歪速度は、表面張力と外応力を組合わせた計算値と関係づける。歪速度と応力との関係式における指数 nは、実測データより算出される。その結果によれば、nは1というよりはむしろ4.5に近い。

第二番目の実験においては、半球状の銀粒子を銀平板に焼結させた。再び種々の大きさの外荷重をかける。半球と平板の間の接触部の面積の増加を電気抵抗の変化を測定することにより決定し、焼結歪速度に関連させる。応力に対する歪速度の依存性をみると、0.07 MPa以上の応力に対しては、Nabarro –Herringのクリープではなく、Weertmanのクリープを示唆している。

ここで、上記両実験の評価において、応力計算を始めとして、多くの仮定と近似を必要とすることを記しておかなければならない。

拡散流動と転位の運動による物質輸送を区別するための実験として次に挙げられるのは、マーカー実験である。金属基地中に酸化物粒子を微細に分散させた線材あるいは球形粒子を用いて、線を束ねたものあるいは球形粒子のゆるい充填体を焼結し、ネックを形成させる。ネック形成中における不活性マーカーの運動から結論を導き出すわけである。もし、物質輸送が拡散流動で起こるならば、すなわち空孔や原子の移動により起こるならば、マーカーは動かないと考えられる。一方、転位の運動による塑性変形を伴うならば、ネック部に微細な酸化物マーカーが取り込まれるであろう。

0.3 μm以下の酸化アルミニウム粒子を1%分散させた100-180 μm直径の銀細線を用いたマーカー実験が行われた。銀細線はより合わされ、930 ℃で焼結された。線間ネックを調べると、1-360 hの焼結時間の範囲では、ネック幅は焼結時間とともに増加した。また、常にマーカーを含む中央領域があり、この領域の平均の幅は焼結時間にかかわらずほぼ一定であった。そこで、焼結初期には物質は塑性流動によりネックに移動したが、応力が減少する長時間側では拡散流動が支配的になったと結論づけられた。

別のマーカー実験では、1.3 vol%のシリカを内部酸化法により分散させた直径50-100 μmの球形銀粉配列体を980 ℃で3時間焼結した。3次元的な粒子配列体においては粒子間に拘束が作用するため、個々のネックにおける応力の大きさは変化することが予想される。マーカーを含まないネック、マーカーを含む中央領域をもつネックおよびネック表面近傍のマーカーを含まない領域が観察された。

第三番目のタイプの実験は、ネック成長に対する結晶異方性の影響をみるものである。種々の相対方位を有する亜鉛単結晶線を焼結すれば、結晶中における物質輸送を支配するような諸特性の異方性によりネック幅の変動が起こるはずである。直径0.25 mmの細線対を一方を上にして365 ℃、8時間、加圧水素中で焼結した。底面滑りに都合の良い方位に合った線のネック幅は、そのような方位にない線に比べて2倍の大きさになることがわかった。亜鉛の底面滑りはこの場合の焼結速度では他の滑り面における場合より1/5~1/10小さい。それゆえに、この場合、塑性流動プロセスが重要な機構になっていると結論された。

以上の三つのタイプの実験によれば、塑性変形は、焼結の初期段階には一定の役割を果たすことが示されている。しかしながら、それらの実験結果から、焼結中の物質輸送における塑性流動と拡散流動の役割の間に定量的な境界線を引くことはできない。

転位の増殖と転位密度の実験的観察を検討する前に、塑性流動による焼結を研究するための泡模型について簡単に述べておかなければならない。このモデルはBraggとNyenoの研究に基づいている。応力をかけると等サイズの泡列は初め弾性的に変形し、ついで金属格子における場合と同じように転位の増殖と滑りによって塑性変形する。泡模型は純粋に滑りのみによる焼結の形態変化を知る上で有用である。しかしながら、泡は質量がないので熱振動をシミュレートすることはできないし、熱活性化した交差滑りや上昇により支配された拡散やクリープなどのプロセスをシミュレートすることもできない。

泡模型を用いた焼結実験、特に泡円板と泡平板の焼結および二つの泡円板の焼結においては、ネック成長やポア消滅のような焼結現象は、弾性変形や転位の剪断変形プロセスによっても起こり得ることを知ることができる。ネックの端部の鋭いコーナーにおける転位の核生成は、この場合の重要なプロセスである。


宗宮 重行・守吉 佑介 共編 「焼結-ケーススタディ」

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