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高温X線回折パターン |セラミックス技術コラム

セラミックス技術コラム

高温X線回折パターン

 分散強化鉄の高温X線回折写真をPhoto.1に示す。回折条件は、FeKα線、35KVA、10 mA、4時間である。Photos.1(a)およびPhotos.1(b)はそれぞれ高見かけ密度および低見かけ密度の試料の回折写真である。


 測定温度900 ℃は、α-Feの加熱時のA3変態の開始直前の温度であり、960℃はγ-FeのA3変態のちょうど終了点に相当し、725℃は変態の中間温度である。900℃ではフェライトの回折線のみが現れている。925℃ではフェライトとオーステナイトの両回折線が現れており、これはFig.3に示した膨張-収縮曲線の結果と一致する。一方、960 ℃ではフェライトの回折線は消滅し、オーステナイトの線のみが現れている。Photo.1を用いて計算した分散強化鉄の格子定数をFig.7に示す。



図中の一点鎖線は、EsserとMullerによる純鉄の格子定数である。低見かけ密度の試料の格子定数は、EsserとMullerの値より大きい。前述の通り、アルミナは鉄中にほとんど固溶しないから、高見かけ密度の分散強化鉄の組成は、低見かけ密度のものの組成と差はないであろう。高見かけ密度鉄と低見かけ密度鉄の組成に差はないから、高密度鉄の格子定数の増大は鉄基相に引張り応力が存在することを示している。物に室温においてその差異は最大であり、高温ほど差異は小さくなる。しかし900℃でもその差異が存在することからこの温度においてもまだ引張り応力の存在が結論される。H.W.NewkirkとH.H.Sisler15)はNi-TiCサーメットの内部応力の計算式を次のように表した。

  σ = εE/(1-2ν)

ここで、σは応力、εは伸び%、Eはヤング率でνはPoisson比である。この式と、Fig.7およびTable 1に示した格子定数の増大した値を用いて内部応力を計算した。結果をFig.8に示した。





室温における内部応力は、93 kg/mm2であり、900℃では15 kg/mm2である。本式は、しかしながら弾性変形についてのみ適用されるべきものであり、塑性変形に対しては適用できない。それゆえに、実際の応力は上記の値より小さいであろう。フェライトの格子定数は925℃では増大している。また、オーステナイトの格子定数もEsserとMullerの値より大きい。この場合の内部応力は52 kg/mm2と算出された。この応力が、A3変態時にオーステナイト自身に作用することは注目すべきことである。960℃では格子定数はEsserとMullerの値に近づいている。そして内部応力は28 kg/mm2に減少している。高温では内部応力は消滅して格子定数値はEsserとMullerの値と一致すると考えられる。


考察
 分散強化材は高温で化学的に安定で、基相と濡れ性の良い大量の微視的粒子を含有するため、粒子と基相との間に大きな干渉作用が起こると考えられる。それが体積変化の障害になる。分散強化材を高温から冷却すると、分散粒子は基相の収縮に抵抗する。その結果通常の鉄の加熱時と比較して、格子定数は大きくなり熱膨張係数は小さくなる。
 鉄基相とアルミナの間に溶解度はないから、分散強化鉄の小さな熱膨張は、オーステナイト基相へのアルミナの溶解に依存しない。
 従って、Fig.5に示した通常鉄と分散強化鉄との間の熱膨張係数の差は、基相の体積変化に対する分散粒子の干渉結果に依存すると結論するのが一番もっともらしい。
 鉄基の分散強化材においては、加熱過程でのA3変態は、910℃で起こり、加熱時には収縮を伴い、冷却時には膨張を伴う。この膨張および収縮は分散粒子の干渉効果により抵抗を受ける。高温においては、この干渉そのものは変わらないが、基相それ自身が軟化するため、格子定数の増大は緩和される。Fig.7に示したオーステナイトの格子の膨張からA3変態における全収縮を次のように計算することができる。

 全体積変化ΔVは900℃におけるフェライトの格子定数と960℃におけるオーステナイトの格子定数を用いて次式のように表される。


 

ここで、aaとはaγそれぞれフェライトとオーステナイトの格子定数である。EsserとMullerにより計算された全収縮量は0.71%であるが、Fig.7から得られる値は0.25%であり、前者にくらべて約1/3になっている。この理由は次のように考えることができる。A3変態の過程で、もし試料内部がまだ変態しないにもかかわらず表面層がオーステナイトに変態すると、表面層のオーステナイトの格子定数は、内部に未変態のフェライトが存在するために正常値から偏奇する。一般に、X線の浸入深さは、この情況を証明するには十分ではない。この点を明らかにするために示差熱分析を検討したが、A3変態を抑制する明確な根拠は得られなかった。


謝辞
 著者はTohoku Metal Co.Ltd.の親切な御協力に感謝いたします。N.Kagawa氏には本研究を通して熱心にご協力いただきましたことを感謝いたします。



参考文献
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Science Reports of the Research Institutes,Tohoku University,pp. 146-155(1962)


日本学士院会員 東北大学名誉教授 今井勇之進
訳者 渡辺 龍三 東北大学教授 工学部

焼結-ケーススタディ 宗宮 重行・守吉 祐介 共編

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